2023-09-29

Eternal / Branford Marsalis

 

Branford Marsalis(ブランフォード・マルサリス)は、アメリカのサックス奏者。スティングの名曲「Englishman in New York」でのサックスプレイが最も有名でしょう。スティングがソロになってバンドを組んだ際の映画がとても好きで何度も観ました。ブランフォードの“どんな批判にも慣れているぜ”なんて言いながら見せたやんちゃな笑顔が印象的です。いまや弟のウイントン(トランペット奏者)とともにジャズ界のレジェンド的存在です。

2004年の本作は全編にわたり何回も聴いたので、彼のサックスフレーズを覚えて鼻歌してしまうほどです。バラード集ということで、ゆったりしていて一音一音に感情が深く込められた沁み入る演奏をたっぷり聴くことができます。仕事に疲れた日の夜に静かにこの音楽に浸るなんてことも多かったなぁ。何回も聴いたということはそういう日が多かったってことかなんて。そんなこのアルバムに出会えたのも幸せなことです。

ウェイン・ショーターの1.The Ruby and the Pearl でゆったりした時間は始まります。このソプラノサックスの優しい音といったら...。エンディングも素敵です。2.Reika's Loss のフレーズ後の余韻が素晴らしい。3.Gloomy Sunday では大きく波打つリズムに深い感情を乗せてきます。6.Muldoon は優しく包んでくれる美しいピアノとのデュエット曲。7.Eternal は静かに微笑んでいるような明日への曲と思って聴いていました。


2023-09-28

グールド作品からAIを想う

 

画像生成やChatGPTなどAIとコンピュータの進化は止まりません。つい30年前はCG技術でプロって凄いと感じていたのに、もうパーソナルが最新技術を使う時代になりました。そして一部ではAIが作る音楽なんて話題もありまして、そこでふと思い出したことがあります。

グレン・グールドというクラシックピアノの演奏家がいます。バッハ:ゴルトベルク変奏曲の衝撃的とも言われた1955年の演奏録音があります。有名なのは1曲目のアリアですが今回は2曲めを。

そしてグールド没後25周年として発売された「Zenph Re-performance」という2007年の録音があります。生成AIに聞くと以下の説明が出てきました。

Zenph Re-Performance は、アメリカのコンピュータ・ソフト「Zenph」を使って、グールドのモノラル音源を徹底的に解析し、キータッチや音量、ペダルの踏み込み加減にいたるまで完全にデータ化したものです。このデータは、自動演奏ピアノ(ヤマハ製ディスクラヴィア/9フィート・フルコンサート・グランド)を用いて再現され、その再現音を録音しました。

1955年の録音はモノラルだったので、それをコンピュータで解析し自動演奏させてステレオ音源にしたというのです。

さらにこの自動演奏をバイノーラル録音と言って、あたかも弾いている本人の耳で聴いているかのように聴こえる特殊録音を施したものがあります。

驚くことに2007年録音でもグールドそのものが再現されていて、なおかつ高音質なんです。こんなことができちゃうんだと思いました。
さて、そこで再度最初の1955年の録音を聴きます。どう感じましたか。僕は音に力強さを感じ、まるでグールドの意思がグッと伝わってくるようで、モノラル録音であることがかえって奏功しているのではとさえ思いました。

そうかやっぱり本人による演奏録音のほうが良いんだ、音質が問題ではないんだと結論づけたいところですが、2007年録音も聴き続けていると、特にバイノーラル録音をヘッドフォンで聴いていると徐々に惹き込まれて、いつの間にかグールドの世界に浸っていました。

飛躍かもしれませんが、この自動演奏による再現を聴くことと、生成AIに感じることは似ているのかもしれません。本物ではないけど本物をコンピュータで精緻に再現。どちらが良いか悪いかというよりも、見分ける(聴き分ける)ことさえできるかどうか。僕としては少なくとも本物の良さを感じられる耳を持ちたいと願っています。

2023-09-27

Witness to History / Eddie Henderson

 

Eddie Henderson(エディ・ヘンダーソン)はアメリカのジャズトランペット奏者。御年82歳だそうで、このブログを書いていて「ミュージシャンは長生き」と思うようになりました。同い年のハービー・ハンコックとの共演も多く「V.S.O.P.」で彼の演奏を耳にしていました。

大好きSMOKE Sessionsからの2023年リリースでやはり高音質です。気になるドラマーはこれまたレジェンドのレニー・ホワイト。マイルスの「ビッチェズ・ブリュー」からリターン・トゥ・フォーエヴァーという凄い経歴です。バンド全体の演奏も百戦錬磨の風格で、これぞモダンジャズを最新録音で聴くことができます。

おっマイルスか!と思わせる曲は、レニーがあの頃のように淡々とリズムを刻む1.Scorpio Rising と極めつけの4.It Never Entered My Mind 。あぁ浸っていたいと思います。5.Freedom Jazz Dance は変わったリズムで難しい演奏なのに、ベテランの為せる技なんでしょうリラックスして聴くことができる曲でオススメです。


2023-09-26

Live at Murphy's Law / Jesse Van Ruller

 

Jesse Van Ruller(ジェシ・ヴァン・ルーラー)はオランダのジャズギタリスト。23歳でセロニアス・モンク・コンペティションのギターコンテストで優勝したり、あのパット・メセニーから最も優れた若手のひとりと言われたりしていますが、一聴すればその確かで突出した腕前はわかると思います。2004年の本作はオランダの広くないクラブ“Murphy's Law”で彼が初めて録ったライヴレコーディング。

僕が気に入ったのはまずその優れた音質。クラブの空気感まで伝わってくるような生々しさ。いい音のギターを聴きたいと思った時はこのCDに手が伸びていました。4K映像のように細部までフォーカスが合っていて、すぐそこでギターを弾いているよう。僕が小さめのハコに魅力を感じたのも、またそうしたジャズライヴの録音を好んで聴くようになったのも、このCDのおかげかもしれません。

いかにもジャズギターのお手本のような1.Isfahan のスイングで始まります。3.The End of a Love Affair のギターフレージングを聴いているとあまりに多彩でどうなっているのかわかりません。その分集中して聴きます。4.Detour Ahead はこのアルバムで好きな曲。本人も楽しんで弾いているのがわかる。ベニー・グッドマンの7.Goodbye でも彼独特の音色でじっくり聴かせる曲になっています。


2023-09-25

社長にだけはなりたくない!

 

「てやんでぇ!社長」も8ヶ月ほど書いてきました。20年程やってきた社長や経営者という仕事を振り返って、次代にどんな仕事に就くかわからない娘に向けて思いつくところを書いてみました。これを読んだらおそらく「社長なんてやりたくない」と言うでしょう。理由は大変そうだから。そりゃ、これだけいろんなこと考えなきゃならないし、やらなきゃいけないんだからそう言うのも無理はない。

社長になるとまあ批判が多いですよ。悪口、陰口、野次も。足も引っ張られるし、後ろから矢が飛んでくるし、揚げ足もとられる。結果が悪いと責任とって辞任したり減給したり、しなかったり...。開き直って「悪いのは自分じゃない」とばかり部下のせいにしたり、取引先のせいにしたり。不機嫌を周囲に撒き散らして、さらに悪口が増える。

できることなら社長にだけはなりたくない、せめてNo.2以下、いやいや平社員が一番。だって言われたことだけやってれば給料もらえるんだから。余計なことはしないほうがいい。なんとか仕事をやっつけて、たまにゃ時間外に仲間と会社や社長への愚痴でもいいながら食べたり飲んだり。こっちだって大変な仕事やってやるんだから愚痴ぐらい別にいいだろと。

選択の時代”ですから、どんな人生を歩もうとそりゃ人の勝手です。死ぬときゃみんな独り、あの世には何も持っていけません。死んだあと何を言われようと自分には何も聞こえません...。
でもまあ奇跡のような縁あって、父と娘なわけですから、娘が生きていく過程で自ら“選択”するときにちょっと参考になればと思い、あと数ヶ月書いてみます。

2023-09-22

Everything Must Go / Steely Dan

 

Steely Dan(スティーリー・ダン)のCDですが、我が家には「彩(エイジャ)」(1997年作)が5枚、「ガウチョ」(1980年作)が4枚あります(SACD含む)。リマスター違いでもあり、わずかですが音が違う。レコードプレーヤーを持っていたらこの倍は揃えていたはずです。音質も演奏も曲も最高クォリティだからこそ、最高の音を聴きたいという思いからです。

2003年の本作は実質ラスト・スタジオアルバムです。2017年にウォルター・ベッカーが亡くなりドナルド・フェイゲンだけになってしまいました。このアルバムももちろん最高クォリティです。ロックでありソウルでありジャズである唯一無二のサウンドです。僕はスピーカーやヘッドフォンをチェックするときには彼らの音源を用意します。このサウンドを気持ちよく鳴らすことができる機器であることが条件です。

たとえば1.The Last Mall の細かく刻むハイハット、薄くドライヴかけたギター、絶妙に絡んでくるホーンセクション、終わり方にシャレが効いています。歯切れのよいリズムの2.Things I Miss the Most はキャッチーでありながら独特のハーモニーとコード進行、ポップで覚えやすい3.Blues Beach のスネアの乾いた音、変わった音色の装飾などなど、このあともずっと丁寧に作り込まれた、そこにあるべくしてそれしかない厳選されたサウンドとアレンジを聴くことができます。

2023-09-21

原始的に衝撃を受けた曲

 

これまで音楽を聴いてきて「衝撃!」と言える音や曲が誰にでもあると思います。それこそ説明書きなしに聴いて「なんじゃこりゃぁ」となった音源です。僕にとってその曲とは、中3か高1のときにFMラジオで聴いたヴァン・ヘイレンの1stに入っている「Eruption」です。

中古のエレキギターを手に入れてリッチー・ブラックモア最高!と弾き始めた頃、この世のものとは思えないギターを聴いてしまいました。エディことエドワード・ヴァン・ヘイレンが爆撃のように始めて、ぶっ飛んだソロをこれでもかと展開する短いインスト曲です。邦題は「暗闇の爆撃」とあってそのとおりだと思いました。

まともな言葉では説明できない。すげーな、どーなってんのこれ、うぉーっ!っていう感想しか出てこなかった。とても原始的な感動です。こうなるともう説明不要、音質関係なし。爆音で部屋を耳を満たすことで何度でも衝撃!です。こんなギターを弾けるようになってみたい、こんなサウンドを出してみたい、と僕のエレキギター熱は急上昇したのは間違いありません。

あとで知ったことですが、世界中のギタリストが衝撃を受けていました。そりゃそうだ。そして多くのスーパーギタリストがこうしたギターのみの曲を発表していますが、このエディのプレイを超えるものは無いと僕は思っています。