2024-07-30

オーディオ展示会に行ってきた

 

6月にOTOTEN、7月にインターナショナルオーディオショウに行ってきました。量販店でさえオーディオ売り場が縮小していく時代に、果たして“オーディオ”がどれほど一般的なものなのか疑問でありますが、こうした展示会に行くと来客の意外な多さに驚き、関わっている業界の方々の懸命さに少し嬉しくなったりします。

やっぱり来客は僕のようなオジサンが多いですね。70年代80年代のオーディオ最盛期に夢中になった世代ということでしょう。しかしあと10年もすると...。若い世代にとってどうなんでしょう。オーディオってヘッドフォンやイヤフォンで聴くこと?Bluetoothスピーカー?という感じかな。そうなるとスピーカーの前でじっくり聴くスタイルはニッチなのかもしれないと思ったりします。

ニッチで何が悪いとばかりに、高級機のデモを聴きます。きちんと調整された環境で聴く高級機の音は、余裕があって、眼の前にあらゆる音が鮮明に表現されて、素直に「あぁ音楽っていいなぁ」と思わせる揺るがないチカラを感じます。家を買うよりは安いし、高級車を買うくらいのつもりでこの音が手に入るなら、という値段です...。夢があるのはいいことですよね。

OTOTEN 2024
インターナショナルオーディオショウ 2024



2024-07-26

Evergreen / Julius Rodriguez

 

Julius Rodriguez(ジュリアス・ロドリゲス)はアメリカのマルチ奏者&作曲家です。ドラマーとしても活動しているそうですが、この2024年作でも鍵盤、ギター、ベース、ドラムス、プログラミングなどなんでも一人で演奏しています。ジャズのみならず、ヒップホップ、テクノなどジャンルを超越して彼の音世界を展開しています。現在25歳とのことで、若くて凄い才能です。

サウンドデザインのことを書きましたが、その視点で聴いても面白いです。モノラルのように中央に音を集めておいて一気に左右に空間を拡げたり、細かく音を移動(パン)させたり、後方で街の雑踏を混ぜたりというように、白黒から極彩色まで使い分けて、曲そのもののイメージを伝えています。もちろん演奏技術や曲の進行も秀逸なのですが、それもあくまでパーツであるというような位置づけ。

2.Funmi’s Groove を聴けばその極彩色ぶりがわかると思います。曲としても印象に残る7.Run To It (The CP Song) はミッシェル・ンデゲオチェロと共作とのことで、ポップ性が光る作品。キーヨン・ハロルドTpが参加している8.Love Everlasting も気持ちのよい曲でサウンドデザインが効いています。Apple Musicでは空間オーディオ(Dolby Atmos)で聴くことができます。スピーカーでサラウンドもお持ちであればぜひ。

2024-07-23

サウンドデザインについて

 

僕が80年代のヒット曲を聴いていたりすると、家族に「いかにも昔の音って感じ」と言われてしまいます。この頃の音楽制作では、デジタルによる機材の進歩が始まり、かなりの創意工夫で現場は苦労が多かったと思います。DTMソフトの操作性はもちろん、CPUもメモリもハードディスクも限界が低くてバグやクラッシュで大変だっただろうなと。それでもマイケル・ジャクソンやプリンスの音を聴くと時代を超えたチカラを感じる音を出していて、スゴいなと思います。

それが2010年代にもなるとデジタル技術は進化して、アメリカのアーティストを筆頭に革新的な音作りになっていきます。特にサウンドデザインといわれる音像や音場、倍音や位相、エコーの処理など細部にわたってコントロールできるようになって、キャンパスに絵を描くように音作りされています。オーディオ的にはイヤフォンやヘッドフォンで聴くリスナーが多くなって、耳の中に拡がる空間表現を楽しむようになったことも関係していると思います。

例えば、個人的な印象になりますが、ハイハットやアコギなどの高域成分は左右に思い切り振って、ベースのような中低域は真ん中よりちょっと下に厚めにノリよく。超低域から高域はシンセで広大な空間を意識させて。ヴォーカルやコーラスがひきたつように全体をバランス調整している。昔のようにライヴでの演奏位置に配置するだけではない印象です。

20年代の今はさらにDTMや音作りのソフト技術が進化して、ハイレゾでキャンパスが最大限に広くなり、空間オーディオによって音像をさらに細かく位置づけできるようになって、サウンドデザインは驚くほどクオリティの高い楽曲が増えていると思います。

リスナーのリスニング環境も多様化しているので、音楽制作の現場もいろいろやることが多くて大変だろうなと推測します。ソフトの進化やAIによる工数削減はあるものの、作詞や作曲だけでなく、サウンドデザインをどうするかについてもクリエイティビティが問われる時代になっていると思います。

2024-07-19

A Duo / Matt Holborn & Kourosh Kanani

 

Matt Holborn(マット・ホルボーン)はイギリス、ロンドンを拠点にしているヴァイオリニスト。Kourosh Kanani(コロシュ・カナニ)もロンドンで活躍するギタリスト。10年以上一緒に演奏してきたという彼らは、ジャズやロックをはじめペルシャ音楽やインド古典音楽など様々な要素をバックグラウンドにして即興演奏の活動をしているそうです。

2024年に配信開始した本アルバムは一聴してあのジャンゴ・ラインハルトGとステファン・グラッペリVnの演奏を思わせる音楽です。マヌーシュ(フランスやベルギーで生活するロマ民族、ジプシーといわれる)ジャズとしてジャンゴをはじめ独特なスタイルですが、遠く日本の僕たちにもなぜか耳馴染みのよいサウンドだと思います。

ジャズスタンダードの3.You and the Night and the Music や5.Someday My Prince Will Come 、8.I Fall In Love Too Easily の彼ららしいアレンジや即興演奏は新鮮な印象です。とりわけオリヴァー・ネルソンの6.Butch and Butch は最近ブルース耳になっている僕に響きました。アコースティックでさわやかで湿気の少ないサウンドで部屋を満たせば、異国にいるかのよう。暑い夏にオススメです。

2024-07-16

今のギターはこれだ!“キングフィッシュ”

 

久々にギターに手を伸ばしたくなった(実際にしばらく弾いた)音源&映像をYouTubeで知りました。Christone "Kingfish" Ingram(クリストーン・“キングフィッシュ”・イングラム)、1999年生まれ25歳。アメリカ、ミシシッピ州出身のブルースギタリスト&シンガー。グラミー賞をはじめ数々の受賞歴ありと。

Fender Signature Sessions

まずは弾きまくるときのギター音が好み。このくらい歪ませて、伸びがあって、ネバりがあって、フレーズもいやはやカッコいい。ビデオを観ているとあまり指板は見ない。曲の変わり目くらい。次の展開のときにドラムスにチラッと顔を向けるのがいい。で、クリーントーンやちょい歪みの音もいい。もちろん歌もハートフルさが伝わってくる。

大好物なスティーヴィー・レイ・ヴォーンやジョン・メイヤーはもちろん、ゲイリー・ムーア(ブルース期)やハイラム・ブロック、やっぱりB.B.キングも想い起こしました。キングフィッシュのギター音は僕が出したい音に近いかもしれない。気持ちよ〜く聴いています。今年2024年発表のライヴ音源もすごくよかったのでオススメ。

2024-07-12

Wild Is Love / Naama

 

Naama(ナーマ、Naama Gheber)はイスラエル出身、ニューヨークで活躍するジャズシンガー。2012年にはテルアビブでジャズの声楽を学び2015年に奨学金を得てニューヨークへ。ライヴ経験を積んで、2024年本作は4作目のリリースとなっています。今回は名手ピーター・バーンスタインGを迎えての作品です。

世の中キレッキレの曲が多くそれもいいんですが、たまにはこうしてリラックスムードで音楽に浸りたくなります。正統派で歌い上げ過ぎず、ときに語りかけるようで、粋なスキャットも聴かせてくれます。ギターやバックの演奏もあくまでナーマの歌唱を支える優しい演奏。ジャズクラブでその場に居合わせたら「ん〜いい」となるでしょう。

ここはピーターのギターとの共演曲をオススメします。2.Who Am I の気だるさもいい感じです。5.From This Moment On のスイングもノリよくカッコいい。ナーマの実力を知る6.I'm Glad There Is You はデュエットで落ち着いた曲。どれも2分〜4分程度の作品なので無理なく、しかもハイレゾで楽しめるアルバムです。

2024-07-09

ジャズ・ロックその3

 

前回、ジャズ・ロックへの扉をジェフ・ベックが開いてくれたことを書きましたが、もうひとりいます。エドワード・ヴァン・ヘイレン(エディ)です。「僕が両手で押さえることを、彼は片手でやってしまう」的なことを言わしめたスーパーギタリスト、アラン・ホールズワースを世界中に紹介してくれたのです。ギター雑誌でも盛んに取り上げられていたのがアルバム「Road Games」でした。

フレーズが特異すぎて何を弾いているのかわからないけれど、ものすごく速くて滑らか。のちのちエディが影響を受けていることがわかってきました。僕もすっかりはまって彼のアルバムを全部手に入れてしまいました。

エディからはもうひとつ。インタビューで「最近何か他人の曲を聴いたか」との問いに「ブランドXがすごかった」的に答えていました。調べるとフィル・コリンズがドラムスとして在籍した時期もあるバンドでした。ポップ期のジェネシスや“恋はあせらず”のイメージからはかけ離れた凄腕ドラミングぶり。レコード屋に行ってブランドXの輸入盤LPを探して集めたのが懐かしい。

ここでもジョン・グッドソールGがこれまた凄腕ですが、気に入ったのはパーシー・ジョーンズのベースでした。当時も今もフレットレスベースの音が大好きで彼のフレーズは本当にカッコいい。

ジャズ・ロックはギタリストが凄いことはもちろん、ベーシストやドラマーがこれまたとんでもない演奏力であったことがギター少年には多いに響いたのです。アラン・ホールズワース関連を集めれば、トニー・ウィリアムスDrやビル・ブルーフォードDrのアルバムにも行き着いて、ジャズやプログレにつながっていったというわけです。

2024-07-05

Soul Jazz (feat.Vincent Herring) / Something Else!

 

アメリカのアルトサックス奏者、Vincent Herring(ヴィンセント・ハーリング)によるプロジェクト“Something Else!”の2024年デビュー作。僕の大好きなSMOKE Sessionsからのリリースで今回も熱い演奏を届けてくれました。メンバーにはウェイン・エスコフェリーTSをはじめジェレミー・ペルトTP、ポール・ボレンバックG、デヴィッド・キコスキーP、エシエット・エシエットB、オーティス・ブラウン三世Drという名手たちの共演となっています。

アート・ブレイキーやホレス・シルヴァーたちのハードバップ〜ファンキージャズは、さあ今日もがんばって仕事しましょ、ってときの音楽にぴったりで、元気が出るし緊張を和らげて余裕も生まれるというプレイリストに欠かせない存在です。もちろん仕事が終わったあとの“ぷはーっ”にも最適。ほぐされます。今作はいいとこ取りで、録音も選曲、選フレーズも最高の一枚となっています。

1.Filthy McNasty で気持ちをアゲていきましょう。各パートのソロも短めに小気味よく進んでいきます。なかには4.The Chicken なんてファンク定番曲やハービーの5.Driftin' も。いぇー!ってなりますね。6.Slow Drag なんて絶妙な気怠さで、さすがベテランの演奏。おなじみコルトレーンの8.Naima ではソウルフルなベースラインで気持ちよいアレンジ。ギターの音もいい。思わず体が動いてしまうそんな“ソウルジャズ”アルバムです。

2024-07-02

ジャズ・ロックその2

 

僕のようなギター少年にとってジェフ・ベックは特別な存在でした。ギター雑誌では「Blow by Blow」(1975年、邦題:ギター殺人者の凱旋)の“Scatterbrain”や“Cause We've Ended as Lovers”(邦題:哀しみの恋人達)のTAB譜が載っていて、エレキギターのあらゆるテクニックが盛り込まれているから、ぜひ弾いてみよと。しかし一聴して「無理」と思い、まずはスモーク・オン・ザ・ウォーターを練習することにしたのでした。

たぶん「Blow by Blow」にジャズっぽさを感じていたんだと思います。これはコード進行が容易ではないんだと。そしてジャズ・ロックを感じることになったのは、「Wired」(1976年)そして「There and Back」(1980年)を聴いてからでした。

特にキーボードを弾くヤン・ハマーがギターのようなフレーズをビシバシと掛けてきて、ジェフも凄いフレーズで呼応するという丁々発止のやりとり。痺れました。これがジャズかと。聞けばヤン・ハマーはマハヴィシュヌ・オーケストラ出身だと。

ジョン・マクラフリンG率いるマハヴィシュヌ・オーケストラとチック・コリアP&Key率いるリターン・トゥ・フォーエヴァーが、僕が思っていたジャズ・ロックバンドでした。マクラフリンのギターはジェフをさらに高速にした演奏。リターン〜にはアル・ディ・メオラが在籍していた。ここで原体験とつながったのでした。そしてマクラフリンもチックもジャズの帝王マイルス・デイヴィスのところにいたのだと。マイルス系譜恐るべし。