2025-05-16

EVERYDAY / 黒田卓也

 

黒田卓也さんは日本のトランペッター。ニューヨーク・ブルックリン在住。僕も2014年「Rising Son」を聴いて以来気に入って、日本のミュージックシーンをリードする存在として注目してきました。彼のラジオを聴いたりすると、その気さくでお茶目なトークも魅力的で、きっと若手ミュージシャンたちにとっていい兄貴的存在なんだろうと思っています。

この2025年新作は“トラック・メイキングとスタジオ・セッションの究極の融合を目指した”とのことで、ただならぬ緻密さとフィジカル的に高い演奏力を聴かせてくれています。サブスクのおかげで様々なジャズの新作を聴くことができるわけですが、黒田さんの作品は本当に世界水準で高いオリジナリティを感じます。日本発ではあるもののニューヨークの今の空気を伝えてくるようです。

タイトル曲2.EVERYDAY を聴けばあぁコレだとなります。鋭くキレのよいリズムと緻密なアレンジ。でもライヴで演奏している姿も想像できる、そんなサウンド。6.Off To Space のドラムスがまたカッコいい!リズムが凝っているのになぜか余裕を感じさせるのが兄貴のなせる技でしょうか。黒田さんらしさは8.Hung Up On My Baby にも出てきます。どこか日本の民謡のようなお祭りのような親しみを感じる曲です。ニューヨーク&日本の今のジャズを詰め込んだとびきりカッコいいアルバムになっています。

2025-05-09

Qobuz Connect きた!

 

今週Qobuzのデスクトップアプリをアップデート更新したら、「Qobuz Connect」ができるようになっていました。先行アクセスとのことで、しばらくしたらみんなできるようになるでしょう。個人的に待望の機能のリリースです。

Spotifyでは昔から「Spotify Connect」ができてコレ便利だったのですが、言葉を借りると“特定のデバイスから他のデバイスの再生を遠隔操作”できるというもの。僕の場合は家ではMacBook AirをオーディオにUSB接続してQobuzを聴いているのですが、iPhoneでQobuzアプリを立ち上げれば、同じネットワーク(LAN)上のMacを再生出力先として指定できるようになった、ということです。※WindowsもAndroid端末もOKです。

左下(赤丸)の表示が出ていれば、音はそちらから出力

つまりiPhoneで曲やプレイリストを選んで再生すると、離れた場所にあるMac経由でスピーカーから音が出る(もちろんハイレゾ対応のまま)。はい、それだけのことです。でも手元にあるiPhoneで遠隔操作できるのはモノグサ太郎にとってはありがた山なんです。

おととし紹介した「離れたMacを操作する」のやり方(Macの画面共有機能)を続けてきましたが、仕事中ならともかく手元のMacを開く必要がなくなりました。

Apple Musicにはこの機能ないんです。AirPlay推しなんでしょうか。アプリで「Remote」という、ライブラリ(に入れてあれば)をiPhoneで選曲再生できる、もしくはいまかかっているプレイリストの再生停止次曲戻曲できるものがあるので、まあいいとします。

そんなのBluetoothでiPhoneから飛ばせばいいんじゃ、それこそAirPlayがあるでしょ、との意見もございましょう。無線も最近は充分に音がイイので老耳には差異がわかるまいとのお説ごもっともです。まぁでもQobuzハイレゾを可能なかぎりそのまま拝聴することにこだわってみようと思っています。

2025-05-02

Tomorrow We'll Figure Out the Rest / Silje Nergaard

 

Silje Nergaard(セリア・ネルゴール)はノルウェーのジャズシンガー&ソングライター。1990年のデビューアルバムをパット・メセニーがプロデュースしたことで有名になったと思います。2025年の本作は20作目(DVD含む)。“両親への深い思い、遠い日の記憶、家族やさまざまな人生の物語にインスパイア”とのことで、1966年生まれ(僕のひとつ下)であることや近年の自分の境遇と重ねて、思いを馳せながら聴いております。

女性ヴォーカルの楽曲はジャズでも人気で、ひとりひとりの個性が感情を豊かに表現していて味わい深いのが魅力。アルバムの中の楽曲によっても微妙に表情を変えていて、繰り返し楽しめます。セリアの歌声からはノルウェー(北欧)の香りが感じられて、行ったことはないけれど、大自然や空気の冷たさや夜の長さを想像することができます。

まずは1.You Are the Very Moon が僕の知るセリアのイメージ。ストリングスがあまーく入ってきてなんとも夢心地です。好きなのは5.Vekket i tide 。母国語でしょうか、ノルウェーを感じます。ストリングスの美しさが際立つバラード8.Dance me Love ではセリアの魅力がじんわり伝わってきて沁みます。好きなヘルゲ・リエンのピアノが全編にわたりこれまた美しい。心は温まるアルバムです。

2025-04-25

ピンク・フロイドをIMAXしてきました

 

ピンク・フロイド・アット・ポンペイ』をTOHOシネマズ日比谷で観てきました。1971年10月イタリアのポンペイ遺跡での無観客ライヴ・パフォーマンスを収録したもので、1972年に映画公開。今回この映像を4Kデジタルリマスターし、さらにレーザー投影&12chサウンドのIMAXシアターで堪能してきました。


向かって左側の席だったので、眼の前にデヴィッド・ギルモアのギターが定位してなんとも嬉しい感じ。そしてギルモアさん若い!途中「狂気」のレコーディング舞台裏シーンも織り込まれたたりして、ちょっと和みました。

それにしても高精細な画質と音質に驚きました。50年以上前の素材が良かったのか、デジタル技術のすごさでしょうか。ギルモアのストラトやスライド・ギター、ロジャー・ウォーターズのブリッジ付近でのピッキングベース、タム多用&ツーバスのニック・メイスン、リチャード・ライトのオルガン、どれもがくっきりはっきり観れて、これぞ映画ライヴ鑑賞の醍醐味でした。

僕よりもさらに年上のファンが大勢観に来ていました。場内がピンク・フロイドのサウンドに没入した空気で満たされていました。帰宅したら「The Dark Side of the Moon(狂気)」をアルバム通しで浸ることに決めて映画館を出ましたとさ。

2025-04-18

Ones & Twos / Gerald Clayton

 

Gerald Clayton(ジェラルド・クレイトン)はアメリカのジャズピアニスト&作曲家です。このところブルーノートばかりですが、彼も最近では「Out Of/Into」のオールスターズで本作参加のジョエル・ロスVib、ケンドリック・スコットDsと共演していました。ほかにエレナ・ピンダーヒューズFl、マーキス・ヒルTp、ポストプロダクションにカッサ・オーバーオールを迎えた2025年新作です。

アルバムジャケットではレコードプレイヤーのトーンアームが2本伸びて、DJターンテーブル2台を想起させています。彼が聴いてきたヒップホップやソウルもじわっと感じますが、アルバム全体的には実験的でジャンルを超えたサウンドをじっくり聴かせる作品です。“2つの別々のメロディが調和して共存することは本当に可能なのか”という「共存」をテーマにした作品とのことで、ジャズが持つ時代性やミクスチャーを巧みに表現しているように思います。

フルートとヴィブラフォンが併走する1.Angels Speak を辿っていくうちに彼の世界に惹き込まれていきます。3.Sacrifice Culture を聴けば上記のニュアンスを感じることができるかと思います。たとえば10.More Always ではマーチングなドラムにやがて合唱が重なっていき不思議な高揚感を得たり。一本筋の通ったサウンドコンセプトがありながら、実に多彩な印象を感じるプログレッシブな作品であると感じました。

2025-04-11

iPhoneをLDAC対応にする“BT11”

 

ワイヤレスイヤフォンのMotherAudio MET1は家でのコードレスなリスニングに活躍しています。このイヤフォンはLDACという高音質化に対応しているので、実は同時期にLDAC方式で送信可能なBluetoothトランスミッターFIIO BT11を購入していました。iPhone単体ではLDAC非対応なので、このドングル(小型デバイス)をUSB-C端子にカチャッと付けることで対応できるようになります。

iPhoneの下に付いているのがFIIO BT11(白色で光っている)

ちなみにLDAC(エルダック)とは、Bluetoothワイヤレス接続でなるべく大量(いままでの最大3倍)の信号伝送を可能にした音声圧縮技術です。通常ハイレゾ音源などを聴くにはイヤフォンやヘッドフォンを“有線”接続して聴くしかないわけですが、それをなんとかワイヤレスで可能な限り高音質にしようとした技術(ソニーが開発)です。

音の精細さは24bit/96kHzまで対応していて、ビットレート(伝送容量)は、音質優先の990kbpsモードや接続安定性を重視した330kbpsモード、その中間くらいの660bpsモード(僕はコレ)を使い分けるようになっています。

実はLDACは電波干渉に弱くて、再生中にプチッて切れたりします。特に音質優先にしているとその影響を受けやすい。さらに動画と一緒に聴いたりすると音声が遅延してこりゃ使えない。というデメリットもあります。

で、音質ですが、音がくっきりはっきりします。MET1はただでさえ音が明瞭で、贅肉がなく、なのにメリハリがあって好きな音なのですが、BT11を介して聴くとさらに高域が拡がってより精細になり、全体的に引き締まり、まさに情報量が増えたように感じます。

というわけで、電波干渉の少ない家の中ではiPhone+BT11+MET1でワイヤレス高音質を楽しんでいます。もちろんじっくり聴くときはスピーカーや有線ヘッドフォンですが。ちなみにBT11はMacのUSB-C端子に接続しても使えます。

細かなことですが、今年に入ってからこのBT11のファームウェア更新が遅れたりしていました。やっと先日正式にアップデートされて、本来の機能が使えるようになり、動作も以前より安定しました。接続アプリやペアリングがうまくいかなかったりして手こずりましたが、今はなんとかなっています。

2025-04-04

Belonging / Branford Marsalis Quartet

 

Branford Marsalis(ブランフォード・マルサリス)こそ僕が40年間聴いてきたアメリカのサックス奏者。ジョーイ・カルデラッツォP、エリック・レヴィスB、ジャスティン・フォークナーDsとのカルテット編成も歴史が長くなりました。2019年以来の2025年本作は、キース・ジャレットの作品にまるまる取り組んでいます。レーベルはECMではなく、ブルーノートから。

よく聴いたのは88年作「Random Abstract」やバラード集04年作「Eternal」です。スティングのビデオでの歯に衣着せぬ物言いややんちゃな少年の笑顔が印象的で、それは今でも変わっていないように思います。マルサリス兄弟では、ウイントンのほうがスマートで、ブランフォードが弟かと思っていましたが、長男でした。やんちゃな彼もバラードでは感情表現豊かに、ドラマチックに歌い上げて“お兄ちゃんスゴイ”ってなります。

そんな大人なバラードは、タイトル曲4.Belonging です。キースのリリシズムをカルテット全体から受け取ることができます。亡き友ケニー・カークランドから知ったというキースの演奏を、50年の時を経ていまこの曲に込めているかのようです。戻って3.‘Long As You Know You’re Living Yours のちょっとレイドバックした明るい曲調がまたブランフォードの得意技で、親しみのもてる演奏です。5.The Windup ではジャスティンのドラムスが光るちょっとラテンなリズムの曲でこのカルテットの力量を表現しています。もうカルテットは演らないのかなと思ったりしただけにうれしい新作でした。