2024-05-17

Beyond This Place / Kenny Barron

アメリカのジャズピアニスト、Kenny Barron(ケニー・バロン)も今年2024年80歳を迎えてなお、新作をリリースしているスゴいレジェンド。バークリー音楽大学から名誉博士号を授与されているんですね。現在もジュリアード音楽院で教壇に立っているとのことで、若手育成にも影響を与えている現役バリバリです。

昔、よく聴いていました”にも書いたとおり、僕はケニーの演奏が好きなんです。緩急自在で、出るところは出て、バックにまわるときはエレガントに振る舞う。独特のアウトフレーズにもニンマリしてしまいます。今回はおなじみの北川潔さんBに加え、若手敏腕のイマニュエル・ウィルキンスSax、ジョナサン・ブレイクDr、スティーブ・ネルソンVibを迎えた編成で仕上げています。

好きな曲1.The Nearness of You で始まるあたりが僕の新定番アルバムになる予感。繊細なイマニュエルのサックスがとてもいい雰囲気です。2.Scratch ではVib.を加えまさに緩急自在なバンドアンサンブルが聴けます。5.Tragic Magic 後半のジョナサンの嵐を呼ぶドラムプレイは聴きものです。モンクの9.We See でのサックスとのデュオでも余裕のあるケニーらしいプレイが聴けて楽しい曲です。

2024-05-14

音楽は脳の報酬である

 

NHKBSの番組で「ヒトはなぜ歌うのか」を観ました。研究している人がいるんですね。アフリカの熱帯雨林に暮らす狩猟採集民のバカ族は“10〜20万年前の遺伝的特徴を色濃く残している”ということで起源を探る対象としたようです。(参照:特集記事

打楽器のリズムや拍手とともに、狩りの成功を祈る歌が自然発生的に始まります。特徴は、

(1)全員が違うメロディーを歌っている
(2)それぞれのメロディーを重ねてみると「完全4度」の音の重なりが完成する

複雑なリズムとポリフォニー。ある人が違うメロディーに移るとすかさず他の人がそのメロディーを補う、といったジャズにも似た即興性を持っているのです。登場する博士いわく、

ビートが繰り返されると脳の「予測機能」が働き出し、次にどんなビートが来るか「予測」し始めます。予測することの快感に加え、裏切られることの快感もあります。予測の複雑さを脳が喜んで大きな報酬を感じると言います。

これ、音楽を聴くときの要素として、そうかもしれない!と思わせるものでした。そうか、僕は音楽を聴くことで脳の報酬を得ていたのかと。

『ヒトはなぜ歌うのか?』の答えは『集団の絆』のため、私たちは人とつながるために音楽を手にしたといっていいのではないでしょうか

音楽を聴くことで、人とつながっていることを感じるというのもライヴに行ったりすると頷けるところです。集団で生存していくために必要不可欠なものだったのかもしれません。

番組ではほかにも「女性たちが水浴びや洗濯の時に川面を叩いて複雑なリズムを生み出す『ウォータードラム』」も面白い音で印象的。認知症患者の脳の機能活性化にも効果の可能性があることも。再放送があったらぜひ観てみることをオススメします。 

2024-05-10

Three of a Kind: Made Up Melodies / Michael Valeanu, Jon Boutellier & Clovis Nicolas

Michael Valeanu(マイケル・ヴァレアヌ)はフランス人ジャズギタリスト、Jon Boutellier(ジョン・ブテリエ)もフランス人サックス奏者、Clovis Nicolas(クロヴィス・ニコラス)もフランス人ベーシスト。ニューヨークで活躍する3人による今年2024年トリオ作品です。

前回のデュオに続いてドラムスのいない、今回はギター&サックス&ベースのトリオです。ギターが伴奏としてもピアノのような役割で、低音はベースが担っています。リズミカルなオルガンのようにも聴こえます。ここでも3人が楽しく会話をしているような密な演奏を心地よく聴かせてくれて、幸せな気分になります。

優しくおしゃれな雰囲気で始まる1.Theodore Walter からなんていいハーモニーなんだろうって思います。お気に入りは6.Bohemian Dreams のメロディです。耳から離れずいつのまにか鼻歌してしまいます。静かなドラマとかで使われそうな音楽。8.Made Up Melody も独特のハーモニーで耳で追いながら聴いています。ジャズの気持ち良いところを抽出したような、素敵な曲ばかりですっかり和んでしまうアルバムです。ジャケットの3人の表情もいいです。

2024-05-07

いい音紹介〜ボブ・マーリー

 

グッとくる「いい音」の音源は、聴いていて気持ち良いだけでなく、スピーカーなどオーディオが自分にとっていい音で鳴ってくれているかどうかを確認する、いわゆるオーディオチェックにもなります。そしてもっといい音で鳴らしたいとも思ったりします。

今回紹介するのは、ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの1973年メジャー1stの「Catch A Fire」の“ORIGINAL JAMAICAN VERSIONS”です。このJamaican Versionであることが大事です。ずっと聴いてきたいろいろ楽器やエフェクトが加えられた英国ヴァージョンではなく、まさにオリジナルレコーディングの音源が随分前に発表されたのです。僕はCDで聴いていますが、サブスクにもあったので↓に。いつもより大きめの音で再生してみてください。

あまりにも生々しい録音に驚いたものです。もともといい音なので、どんなスピーカーでもそれなりに力強く鳴ってくれると思いますが、問題は気持ちよく鳴ってくれるかどうかです。

特にこのぶっ太いベース。直球でお腹に響きます。膨らみすぎてほかの楽器や声がちゃんと浮かび上がってこないのも困ります。ボブの声はいい具合にエコーが効いています。分離のいいサウンドやバンド全体のグルーヴが目の前に存在していれば、からだが自然と動くと思います。

ディスク2では英国ヴァージョンも聴けるので比べても面白い音源となっています。残念ながらこのアルバムのベーシスト、アストン・バレットは今年2024年2月に亡くなってしまいました。そして5月17日にはボブ・マーリーの映画も公開されるそうです。

2024-05-03

Every Now And Then / Cory Weeds meets Champian Fulton

 

Cory Weeds(コリー・ウィーズ)はカナダのジャズサックス奏者。ジャズクラブのオーナーであったり、レーベルも所有してリリースしていたというベテランです。Champian Fulton(チャンピアン・フルトン)はアメリカのジャズシンガー&ピアニスト。ニューヨークで活躍しています。2024年本作は昨年のスタジオライヴ録音とのこと。

サックスとピアノのデュオということで、ドラムスやベースはいません。サックスは和音演奏しないのでピアノソロのときはほとんど独奏になります。デュオといえばビル・エヴァンスとジム・ホールの「Undercurrent」が有名で僕も好きな作品です。静かな中にも楽器そのものの音色をじっくり味わうことができて、二人が会話しているようで、密度が濃い演奏に惹き込まれます。

このアルバムではさらにチャンピアンのヴォーカルも楽しむことができて、これがとてもいい感じで、3.Too Marvelous For Words や4.Linger In My Arms a Little Longer Baby ではニューヨークのジャズクラブで一杯やりながら、なんて雰囲気を味わってみてはと。7.That's Not Your Donut はサックスのスイング感も味わえる素敵な曲です。リズム楽器がなくてもデュオでこれだけスイングできるってやっぱりジャズミュージシャンはすごいです。

2024-04-30

スピーカースタンドにスパイク付けた

 

ずぅーっとサボっておりました。スピーカースタンドのスパイクを付けるのを。買ったときから付属品であったのに、いつかやればいいやとナント2年も放っておきました。

スパイク付けなくても充分いい音だし、内向き角度とか動かしやすいし、もしかして付けないほうが低音の量感があって迫力あるんじゃないかと、自分を納得させておりました。

付属のスパイク付けたところ

さて聴いてみたら、やっぱり低域の量感減っちゃったよと思いました。ところが数分聴いているうちに、井上陽介さんのベースがはっきり見えるようではないか。低域がすっきりしただけでなく、ほかの楽器の音も前に出てきた気がする。よく聴くと低域の沈み込みも感じるようになりました。

スパイクの分、スピーカーの高さが増して、視聴位置での耳の高さに合うようになったのもよかったのかもしれません。面倒がらずになんでもやってみるもんですね。

2024-04-26

ONE STEP BEYOND / 井上陽介Trio

 

井上陽介さんは日本のジャズベーシスト。六本木のジャズクラブでは渡辺香津美さんG(復活祈願!)、則竹裕之さんDrとのトリオで数回ご出演いただきました。100席満員の観客は、飲食を忘れて没頭せざるを得ないほどの凄まじい演奏で毎度痺れさせていただきました。僕はリハからずっと拝聴することができて幸せな時間の思い出となっています。

2024年本作はオーディオ誌STEREO(202402号)に掲載されていて知りました。井上陽介さんのインタビューもあります。南青山から渋谷に移転されたジャズクラブ“BODY&SOUL”での昨年のライヴ録音とのことで、国立音大の生徒であった武本和大さんP、濱田省吾さんDrの若手とのトリオ3作目。24bit/48Hzでの録音も素晴らしく、会場の熱気とともに高音質で聴くことができます。陽介さんのベース音をしっかり鳴らすことができるかお試しください。

STEREO(202402号)P.28〜

香津美さんとのトリオ同様凄まじい演奏を聴けるのがタイトル曲4.ONE STEP BEYOND 。眼の前で陽介さんのベースをあっけにとられて聴いていた自分を思い出しました。3.COLORFUL WIND の武本さんの美しいピアノも聴きどころです。ビートルズナンバー2.DAY TRIPPER 、5.BLACKBIRD のように幅広い音楽好きもウェルカムで楽しめるのが日本のジャズクラブスタイルだと思っています。