2023-11-15

Bridges / Kevin Hays, Ben Street, Billy Hart

 

メンバーを紹介しますと、Kevin Hays(ケヴィン・ヘイズ)は米国ジャズピアニスト55歳。ブルーノートから3枚のアルバムを出していて、ソニー・ロリンズ、ベニー・ゴルソン、ジョンスコフィールドなど著名ミュージシャンとの共演歴を持つ。Ben Street(ベン・ストリート)は米国ジャズベーシスト。彼もジョン・スコフィールド、カート・ローゼンウィンケルなどとの共演歴があります。Billy Hart(ビリー・ハート)は米国ジャズドラマー82歳。ジミー・スミス、ウェス・モンゴメリー、ハービー・ハンコック、マイルス・デイヴィスとの共演歴というレジェンド。簡単に言えば3人共ジャズ界の超ベテランということになります。

お気に入り&定番のSMOKE Sessions Recordsからのスタジオ録音リリースです。ハイレゾで期待どおりの高音質です。落ち着いた演奏で安心して聴くことができます。もしニューヨークに行くことがあったなら、一晩はこうしたベテランの熟練の演奏を小さめのジャズクラブで聴いてみたいものです。

ウェイン・ショーターの2.Capricorn をピアノソロで奏でながら始まり、シンバルがゆっくり入ってくる。やがて3人のコミュニケーションとなる。ビートルズの4.With a Little Help from My Friends なんてまさにベテランによるアレンジ。気持ちよく聴けます。5.Row Row Row のワルツでの展開にケヴィンならではのオリジナリティを感じます。どの曲もほどよい尺で秋の夜長に心地よく聴けるアルバムです。

2023-11-14

Black Radio / Robert Glasper Experiment

 

2012年はエスペランサの作品と、このロバート・グラスパーの作品が発表された象徴的な年だと思います。奇しくもどちらのタイトルにも「Radio」の文字が。25年続いたCD時代が終わり楽曲をダウンロード購入する時代に。その後10年も経たずにサブスク・ストリーミングの時代がやってきますが。Robert Glasper Experiment名義で発表された本作もジャズという枠を軽々と超えて新時代の音楽を僕たちに見せてくれた傑作であると思います。

この作品が僕の深い共感を生んだのは、いままで聴いてきたジャズ、ソウルR&B、ファンク、レゲエ、ダブ、フュージョン、ロックといったあらゆるジャンルの要素を含んでいて、先人たちへのリスペクトも感じることができること。それを難しい顔して表現するのではなく、軽々と昇華して新しいサウンドを作りあげていることに「だから音楽って面白い」と思わせてくれたことでした。ジミ・ヘンドリックスがExperience名義で冒険的な音楽を作り上げたのと同じような雰囲気を感じます。

この作品も全て必聴の濃い作品です。敢えて3曲のオススメを選ぶとすれば、あのエリカ・バドゥを迎えた2.Afro Blue 、5.Gonna Be Alright (F.T.B.) 、ニルヴァーナの12.Smells Like Teen Spirit 。ドラムスにクリス・デイヴ、ベースにデリック・ホッジを迎えた最強布陣でのスゴい演奏と強靭な楽曲。10年以上経った今でも、新しい音楽はこの作品の影響下にあるのではないかと思うくらい必聴アルバムです。

2023-11-13

会社も「退場」するもの

 

組織を構成する「社員」も新陳代謝していくのが自然であると書きましたが、経済社会を構成する「会社」も同じく新陳代謝していくものだと思います。冷たい言い方になりますが、利益を出せない(税金を払えない)会社は市場から淘汰されていくようになっているということです。やはり税金を払って地域や社会に貢献してこそ会社の存在意義があると思っています。もちろん税金を払う以外にも、様々な貢献があると思いますが。

社長にとって「倒産」は仕事を失うだけでなく、多くの負債を抱えるという最も選びたくない選択肢です。しかし現実は月に何社も市場から退場を余儀なくされています。利益を出していれば「売却」という選択肢もあったと思うので、やはり利益を出せなかったということです。マイナスイメージしかないですが、こうして新陳代謝という作用があることは必要だと思います。

やっかいなのは、経営がうまくいっていないのに会社に区切りをつけられない社長自身です。多くの場合、金融機関などから借金を繰り返してなんとかキャッシュフローをポジティブにしているので、金融機関もその会社が潰れてしまっては困る(返済されない)し、社長自身も個人保証しているので、万が一のことがあったら多額の借金のみが残るという最悪の事態になるわけです。社員は転職すれば済む話しですが、社長はそうはいきません。だから倒産できないのです。

こうなってしまっては時既に遅しです。早め早めに経営判断していくためにもよき相談相手が社長には必要です。できれば取締役がその役目を務められればいいのですが、イエスマン体質にしていれば機能しません。建設的かつ時には厳しい意見を言ってくれる人が身近にいると助かります。

2023-11-10

Radio Music Society / Esperanza Spalding

 

Esperanza Spalding(エスペランサ・スポルディング)はアメリカのヴォーカリスト兼ベーシストとしてマルチプレイヤーでもあるそう。本作が出た2012年はCDを買わずにiTunesダウンロード音源のみで楽しむようになっていた時期で、当時このアルバムを繰り返し聴いていたのを覚えています。本作を聴いたとき「とんでもない才能がいるもんだ」と驚きました。彼女の歌はもちろん楽曲もすごくて、これぞいまのジャズだなと感心したものです。

彼女が表現したい音楽はとてつもなく広くて、深くて、自由。それが自在なヴォーカルにもベースラインにも表れているし、多彩な楽曲のカラーにも反映されています。ジャンルなんてとっくに超越していて、それを最高のハーモニーとリズムで聴かせてくれる傑作だと思います。ジャズとはそもそもそういうものなんじゃないのと軽々と提示してくれました。

全曲みっちり聴いて彼女の才能を感じてほしい。でも敢えて3曲オススメを挙げるとすれば、5.Black Gold 、ウェイン・ショーターの9.Endangered Species 、11.City Of Roses あたりかな。どの楽曲もその展開に驚きますし、追従する歌唱に思わず唸ります。それでいて耳に馴染むこの浸透力。僕の中では、スティーヴィー・ワンダーやパット・メセニーに比肩する才能だと思っています。

2023-11-09

「トップ25:ドバイ」を聴く

 

高校生の娘が海外研修でUAE(アラブ首長国連邦)のアブダビやドバイに行きました。一週間留守番の親としても少しでもUAE気分を味わいたいと思い、Apple Musicのプレイリストでランキングにある「トップ25:ドバイ」や「トップ100:アラブ首長国連邦」を聴いていました。ちなみに都市別トップ25にはOsaka、Nagoya、Sapporo、Fukuoka、Kyoto、Sendai、Nahaもあります。

旅行のお供ミュージックとして、そこで流行っている音楽をチェックするのも面白いかなと思います。そこに住んでいる人がどんな音楽を好んで聴いているのかは興味があります。音楽は生活とともにあるので、音楽を聴くことで地元のお店や家庭、車の雰囲気に思いを馳せることができます。UAEのチャートはUSAのものが多い印象ですが、中にアラブらしい音楽が含まれていてそれが楽しい。もっと曲を調べれば、いま現在の国政状況も反映されているかもしれません。

サブスクではこんな楽しみ方も提供してくれていて感謝なのですが、サブスクがあることでみんな同じような曲を聴くようになってしまうのではとちょっと考えさせられます。レコードやCDしか無かった時代はもっと地元のアーティストがランキングを占めていたのではないか。できれば各国各都市のたとえば80年代のチャートも聴いてみたいと思ったりします。どこかにあるかな。

2023-11-08

säje / säje

 

säje(セージュ)はアメリカのコーラスグループ。グループ名はSara、Amanda、Johnaye、Erinの頭文字で確かな実力をもった4人。2021年第63回グラミー賞では1.Desert Song が “Best Arrangement, instrument, and Vocals”にノミネートされました。2023年デビューとなる本作では、バックにドーン・クレメント(p)、ベン・ウィリアムズ(b)、クリスチャン・ユーマン(ds)といったジャズメンバーが参加しています。

ジャズでコーラスといえばマンハッタン・トランスファーを思い出しますが、女性4人のコーラスは珍しいと思います。それぞれの声が美しく、緻密に複雑に調和しているコーラスはうっとりするほど。コーラスだけでなく、リードヴォーカルとしての実力もそれぞれしっかり聴くことができます。

美しい曲1.Desert Song やジェイコブ・コリアー参加の4.In The Wee Small Hours of the Morning を聴くと癒し系かと思いますが、憂いのある3.Never You Mind (アンブローズ・アキンムシーレTp.参加)やアップテンポの7.I Can't Help It (マイケル・ジャクソン。スティーヴィー・ワンダー作)あたりはジャズ濃いめでカッコいいです。ラストの10.Solid Ground/Blackbird のソウルフルなメドレーも静かに聴かせる曲でオススメです。


2023-11-07

liminal / 砂原良徳

 

砂原良徳は元電気グルーヴのメンバーでテクノミュージシャン。1998年「TAKE OFF AND LANDING」や1999年「LOVEBEAT」もオススメですが、この2011年作もとにかくまず音がスゴい。ヘッドフォンで聴いたら耳の中を縦横無尽に音が飛び交います。スピーカーで大きな音で聴くとさらに驚くような音が入っていて、ちょっと圧倒されてしまいます。僕は1音1音にこだわるアーティストが大好きでして砂原良徳はまさにその代表格だと言えます。

ミュージシャンは皆それぞれに音にこだわっていると思いますが、YMO世代としてはテクノと呼ばれるこうしたミュージシャンの活躍が嬉しい。テイ・トウワコーネリアス中田ヤスタカ、もちろん坂本龍一も。テクノとは言われていないかもですが海外ではマッシヴ・アタックエイフェックス・ツインあたりもすぐに思い出されるところです。彼らの作品での1音1音にかける時間や労力、選択力は僕には想像できないほどなんだと思っています。

たとえば1.The First Step でのライターのような音に続く26秒くらいからの音の拡がり、ビートの超低音、ノイズのような効果音など音数が少ないにもかかわらず凄い情報量です。3.Natural のウッドベースにノイズを乗せたような音のセンス。ここに至るまでいったいどれほどの音のなかからこれをチョイスしたのかと。YMOを進化させたような曲が続いていますが6.Beat It あたりのリズムセンスを聴くと、ああやっぱりスゴいなと。たった39分のアルバムですが長編を聴いたような感覚です。